認知心理学概論('06) シラバス
主任講師
高野 陽太郎 (東京大学大学院教授)
全体のねらい
認知心理学とは何か。認知というのは英語のcognition,cognitiveの訳で、これは「環境の状態や変化を知り、それを(個体の生存や種の維持に)利用する」、といった程度の意味である。これを司っているのが心(といっても、英語のmindのほう)だから、「心を実験的に研究する学問」でよさそうだが、これだとただ「心理学」というのと区別がつかない。そこでもう少し付け加えるとすれば、現在の心理学の主流で、人間の心を「認知系」の代表としてとらえ、そのふるまいや働きを広い意味での情報処理的モデルを用いて明らかにしようという立場をとる心理学、ということになる。 この科目では、実験心理学的知見を中心に、認知心理学の各分野においてどのようなトピックが研究されているかを概観し、そのうちの少数を選んで詳しく解説する。ただし、受講者の知的好奇心を刺激するよう、できるだけ日常生活から生じる疑問を最初に提示し、後でそれに対する理論的・実証的説明をおこなう、という方針を採用したい。
| 回 |
テーマ |
内容 |
執筆担当講師名
(所属・職名) |
放送担当講師名
(所属・職名) |
| 1 |
認知心理学とは何か? |
認知心理学の紹介。主な研究分野、日常的なトピックスとの関連、情報処理アプローチと適応論アプローチなどについて論じる。認知心理学の研究・知見が、単に実験室という人工的な場面での人間行動の特殊な観測でもなく、常識の再確認に留まるものでもないことを、実例によりしめす。 |
高野 陽太郎 (東京大学大学院教授) |
波多野 誼余夫 (元放送大学教授)
高野 陽太郎 (東京大学大学院教授) |
| 2 |
イメージ-認知心理学の研究方法- |
認知心理学を学ぶためには、ただそこで見い出されている事実を知るのでなく、そうした事実を見い出すための研究法を知る必要がある。ここではイメージ研究を例に、イメージの実験的研究の歴史を、認知心理学的研究法という視点から跡づける。 |
高野 陽太郎 (東京大学大学院教授) |
高野 陽太郎 (東京大学大学院教授) |
| 3 |
視知覚 |
知覚について概観したあと、視覚情報処理に焦点を合わせて、物体認知などパタン認識の機能を担う腹側系と空間における対象への働きかけや運動のための認知機能を実現している背側系の作用について論じる。 |
横澤 一彦 (東京大学大学院教授) |
横澤 一彦 (東京大学大学院教授) |
| 4 |
注意 |
視覚的注意に焦点をあて、前注意段階と選択的注意段階を想定する特徴統合理論のほか、分散的注意と焦点的注意の協調により視覚認知が成立するという相互作用理論についても述べる。最後に、注意の分割や自動化について、一般的な形で論じる。 |
同上 |
同上 |
| 5 |
記憶の型と神経的基盤 |
さまざまな型の記憶(長期記憶/作動記憶、意味記憶/エピソード記憶、処理水準、潜在記憶)の実験的研究、モデル、神経的基盤などについて紹介する。 |
梅田 聡 (慶應義塾大学准教授) |
梅田 聡 (慶應義塾大学准教授) |
| 6 |
日常記憶 |
これまでの実験室での記憶研究から、日常記憶をも含めることによりどんな進展があったのか、目撃証言、自伝的記憶、展望記憶、虚記憶などの現象を取り上げる。合わせて、記憶の状況依存性にも触れる。 |
同上 |
同上 |
| 7 |
知識と表象 |
認知の構築材料ともいうべき、記号的表象と知識についての実験心理学的知見を要約するほか、高次の知識の単位である概念(カテゴリ)、命題、スキーマ(スクリプト)などについて説明する。あわせて、ここ20年ほどの間にめざましく発展した非記号パラダイムによる研究例について学ぶ。 |
波多野 誼余夫 (元放送大学教授) |
波多野 誼余夫 (元放送大学教授) |
| 8 |
言語・談話理解 |
単語認知、構文解析、談話理解に関しては、それぞれ膨大な実験的検討がなされてきた。ここでは、そのうちでとくに理論的に重要な研究例をみるとともに、その日本語への適用例について学ぶ。 |
同上 |
同上 |
| 9 |
言語と思考 |
言語(例えばある現象を表す語彙の豊富さ)により思考(その現象をどれほど分化して概念化しうるか)が決定されるという言語相対性仮説のほか、バイリンガルの知能、外国語で作業する際の同時処理課題での成績低下などをめぐる実験的証拠を総覧する。 |
高野 陽太郎 (東京大学大学院教授) |
高野 陽太郎 (東京大学大学院教授) |
| 10 |
言語と脳 |
神経科学との相互浸透・影響は、認知心理学の多くの分野において生じているが、なかでも言語の脳科学に注目が集まっている。脳損傷患者についての詳細な症例分析と脳画像計測・解析技術の進歩についての初歩的解説のほか、失語、失読、失書などの認知学的説明を行う。 |
福沢 一吉 (早稲田大学教授) |
福沢 一吉 (早稲田大学教授) |
| 11 |
問題解決 |
思考の研究では、問題解決が中心となる。初期の問題解決はもっぱら人工的問題を用いていたが、最近ではもっと自然な状況での問題解決も増えている。人工知能、エキスパート・システムとの関連についても触れるほか、洞察や創造の実験的研究も紹介する。 |
波多野 誼余夫 (元放送大学教授) |
波多野 誼余夫 (元放送大学教授) |
| 12 |
推論 |
思考研究のもう1つの柱は、推論研究である。人間が演繹推論、帰納推論の課題を解く過程、進化心理学や文化心理学からの示唆などについて、実験的証拠に基づいて論じる。 |
山 祐嗣 (神戸女学院大学教授) |
山 祐嗣 (神戸女学院大学教授) |
| 13 |
意思決定 |
いくつかの可能な選択肢のうちから一つを選ぶまでの過程を意味する意思決定は、認知研究と経済、経営、社会などの研究との接点になっている。人間が行う意思決定にはさまざまな心理的要因やバイアスが働くため、「規範」からの逸脱が生ずることや、人間が最適解を求めるのでなくヒューリスティクスを用いることなどが知られている。 |
小橋 康章 (大化社代表取締役) |
小橋 康章 (大化社代表取締役) |
| 14 |
社会的認知 |
認知心理学と社会心理学の境界領域で、情報処理アプローチと適応論(進化的)アプローチが競合する分野でもある社会的認知を扱う。個人の所属する社会的カテゴリに関する知識や社会的事象に関する知識が果たす役割、社会的推論の方略など。 |
高野 陽太郎 (東京大学大学院教授) |
高野 陽太郎 (東京大学大学院教授) |
| 15 |
認知研究の将来 |
これまでの14回の講義を総括するほか、心理研究と脳研究の関係をめぐって議論をかわす。両者が無関係だとする論や、心理研究が脳研究に吸収されるとする論を退け、両者が相互に促進的な影響を及ぼしうる可能性を追求する。 |
波多野 誼余夫 (元放送大学教授) 高野 陽太郎 (東京大学大学院教授) |
波多野 誼余夫 (元放送大学教授) 高野 陽太郎 (東京大学大学院教授) |
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