授業科目一覧
プログラム
メニューここまで

複雑システム科学('07) シラバス

シラバス科目概要
※印刷用にはシラバスPDF版(22KB)新規ウィンドウ をご利用ください

主任講師

生井澤 寛 (放送大学客員教授)

講義概要

自然科学、特に物理学は、自然の理解にあたって、構成要素や基本的・普遍的な原理の追究を、ときには理想化や単純化をしながら行ってきた。こうして我々は、通常見る物質が、原子・分子から成り、それらが、電子、陽子、中性子などの素粒子から成り、素粒子はさらに・・・と言うように階層性を持つ構成要素とそれらの相互作用を発見し、ミクロな世界だけでなく、宇宙の生成に至るまでの自然の様々な様相の理解にかなりの成功を収めたし、いまでも同様のやり方で探求を続けている。
では、例えば空気が主に窒素、酸素と水の分子からなることを知って、台風がどうして、どこに、いつ発生し、どういう運動をするかを理解できるだろうか。これは決して易しい問題ではない。まず問題を難しくするのは、分子の数が膨大であることによる複雑さのほかに、海流、海水から太陽熱を吸収して蒸発する水蒸気と上昇気流、雲の生成消滅等、熱平衡にない(非平衡)状態、エネルギーや物質の出入りがある状況(開放系という)、さらに無数の雲の渦の生成消滅と非線形な相互作用が絡むからである。非線形な作用があれば、要素の数が少なくても、運動には本質的な複雑さが生ずるし、加えて、開放系で非平衡状態であるために、複雑さは増す。にもかかわらず、いつか無数の渦の中のどれかが成長して台風という形(形態形成)を取り、一つの存在として発達しながら(自己発展・自己組織化)動き始める。
実は良く見れば、我々が日常見るほとんどのもの(生命・生物と進化、乱れた水の流れ、気象など)が、この様な複雑システムであり、ものの変化や秩序の形成は非平衡性、非線形性によって動かされている。これらの様相を、「木(構成要素)もみながら森(全体)も見る」と言う見方で探求し、自然や社会現象、経済活動などを理解する手がかりを得ようと言うのがこの科目のねらいである。

授業の目標

複雑システムの示す複雑さの要因とそれから生まれる多様な可能性を理解することによって、自然現象を総合的に探求する姿勢を養う。

履修上の留意点

物理学の基礎的理解を前提とするので、「初歩からの物理学―物理へようこそ―」、「物理の世界」。「現代物理」を学んでおくことが望ましい。特に、熱・統計力学、相転移の基礎の理解をしておくと良い。

テーマ 内容 執筆担当講師名
(所属・職名)
放送担当講師名
(所属・職名)
1 複雑さは何から生まれるか
マクロな系は、分子数が多すぎてとても個々の分子の運動まで追跡できない典型的な複雑システムである。しかし、温度とエントロピーを導入し、体積や圧力、成分比など、系のマクロな変数の振る舞いに限定すれば、熱力学は、平衡状態の間の普遍的な振る舞いを記述し、系の変化の方向の予測を可能にする。この熱力学をお手本にして、複雑システムに共通の普遍性を探ることが、複雑システム科学の目標である。
そこで、この講で複雑さが何から生ずるかを具体的に見て行こう。まず、熱力学の対象でもある相変化にともなう臨界現象には、マクロに成長するゆらぎが共通し、スケール普遍性やフラクタル性が現れる。エネルギーや物質が出入りする開放系では、必然的に非平衡状態が生まれ、複雑さを誘起する。また、2重振り子のように簡単な系での複雑性は非線形性による。さらに、相互作用や構造の階層性・複雑さ、それに系の不安定性、緩和時間と時空条件の変化の差も複雑性の産み手であることを見る。

生井澤 寛(放送大学客員教授) 生井澤 寛(放送大学客員教授)
2 複雑さから何が生まれるか 前講で見た複雑さを産むものから、どのように複雑さが出現するかを見よう。非線形性による複雑さの代表はカオスである。ここではまず、上田により非線形電気回路で最初に発見されたカオスを紹介し、カオスの性質・可能性について考える。そして、カオスにも見られる自己相似性がもたらすフラクタル性とスケール不変性、臨界現象について見て行く。これらの性質が、経済現象にどう現れ、どう予測につながるかを専門家にインタヴィユーしてお話を伺う。 同上 同上
3 準結晶:複雑さの中の美しさ 19世紀以来の古典結晶学では、原子を秩序正しく並べる方法は原子を周期的に並べて結晶にすることだけであると信じられてきた。しかし、1980年代に この常識を覆す準周期タイリングをモチーフとする準結晶の発見があった。準周期性、非結晶学的回転対称性、自己相似性、高次元結晶学など、原子が構成する複雑構造である準結晶の秘密を探る。 堂寺 知成(近畿大学教授) 堂寺 知成(近畿大学教授)
4 複雑分子:秩序構造の建築家 ソフトマター、複雑流体(界面活性剤、脂質、液晶、ブロック共重合体)の領域では、複雑な分子が自己組織化(ボトムアップ)的にメソスケールの秩序構造 を作ることが知られている。分子の複雑さが作る新しい多様な秩序という観点で従来の研究を概観し、複雑性と多様性の意味を議論する。さらに複雑性を増す ように分子をデザインすることでアルキメデス・タイリング、ケルビン多面体などの構造が生成される。 同上 同上
5 共連続相:ミクロ世界のラビリンス さまざまな物質、生命系では2種以上の物質が複雑に入り組んだ共連続相とよばれる構造が現れる。とりわけソフトマター系では数学的に周期的極小曲面とよばれる種々の周期的な共連続構造が自己組織化する。幾何、物理、化学、生物、工学の境界領域で発展してきた共連続相の研究を概観し、シミュレーションで 構造形成を観察する。 同上 同上
6 ダーウィン進化機構 ランダム突然変異と自然淘汰に基づくダーウィン進化機構は、ラマルク進化機構と異なり、分子生物学セントラルドグマや物理化学と整合性がある。それはまた、生物進化のみならず、一般的な複雑な系の最適化問題・学習問題の解法でもある。 伏見 譲(埼玉大学教授) 伏見 譲(埼玉大学教授)
7 分子を進化させるI ダーウィン進化機構を試験管の中のDNAやRNAに適用すると、ランダムな塩基配列の分子集団から出発しても、高機能な分子が速やかに進化してくる。これは情報の物理的起源と言うべきものである。また、物質の自己組織化現象の極致ともいうべき生命の起源に関する、RNAワールド仮説を支持するものである。 同上 同上
8 分子を進化させるII ダーウィン進化機構を試験管内の蛋白質に適用しようとすると、遺伝子型/表現型対応付けの問題を解決する必要がある。この対応付けのウイルス的戦略は1分子の進化に対しては細胞型戦略より効率が良く、生命の起源においてウイルスが果たした役割に示唆を与えている。 同上 同上
9 粉体とは何だろうか:砂は流れるか 砂の様に巨視的な大きさを持ち、粒子間斥力とエネルギー散逸が重要な物体を粉体と言う。実験室での砂やガラスビーズの振る舞いから、砂丘の運動、雪崩、地震までも含めて紹介し、その物理の可能性を探る。 早川 尚男(京都大学教授) 早川 尚男(京都大学教授)
10 粉体の振る舞い:経験則として何が知られているか 粉体の特徴や統計則を幾つか紹介する。粉体の粒子間の衝突で散逸を表現するはねかえり係数は、高校で習ってきたのとは異なり、衝突速度や角度に強く依存する。また、粉体を積み上げると力は一様に伝播せずランダムな鎖状に力が伝わる。また粉体が流れる時には普通の流体ではストレス(接線応力)とずり速度が比例するのに対して、ストレスはずり速度の2乗に比例する(バグノールド則)。また空中に分散した状態でも一様状態は不安定でクラスター化していくという現象やその法則性を紹介していく。 同上 同上
11 粉体をどう記述するか 未だに粉体を統一的に物理的に記述する方法はない。そのうち、シミュレーション法や、応力鎖に関する理論的手法、ガス状態の記述とその連続体方程式を用いて、バグノールド則に関する簡単な説明を紹介する。 同上 同上
12 複雑さを生み出す基礎 *相転移と臨界点:対称性の破れ、イジング模型と二元合金の模型、平均場近似、液相気 相転移と臨界点
*量子系の相転移:ミクロな系と量子力学、量子多体系、量子融解転移
今田 正俊(東京大学教授) 今田 正俊(東京大学教授)
13 空間構造と時間構造の発生 *空間構造:欠陥と秩序の破壊、複雑な周期性を持つ秩序
*非平衡ダイナミックス:非平衡状態からの緩和、スピノーダル分解・核形成
*自己組織化
同上 同上
14 強相関量子系 *量子相の多様性と複雑性:多電子系、多原子系、物質の性質の多様さ
*強い相関・ゆらぎと階層構造
同上 同上
15 複雑さの他の例とまとめ:複雑システム科学の可能性 複雑さは、訳の分からないものをもたらすだけでなく、秩序や組織、新しい構造も産み出す。非平衡・開放系の簡単な例では、エネルギー散逸や粘性によりきれいな渦(ベナール対流)が生まれたり、化学反応の時空構造が自発的に生ずる(ベルーゾフ・ジャボチンスキ反応)。脳の働きも、複雑システムとしてだんだん把握できてきている。受精卵からの発生や、細胞・機能分化も、制御された実験の進化で、複雑な仕組みが解きあかされてきている。ここでは、この生物化学の進歩を、専門家に伺う。そして、まだ進化の途中にある複雑システム科学の可能性について考えて行く。 生井澤 寛(放送大学客員教授) 生井澤 寛(放送大学客員教授)

このページのトップへ本文ここまで

授業科目案内 大学院 放送大学