レジリエンスの諸相(’18)

主任講師: 奈良 由美子、稲村 哲也

本科目の修学上の目標は、遺伝学、霊長類学、考古学、地理学、自然人類学、文化人類学、環境学、心理学、リスク・マネジメントなどの多様な観点から、レジリエンスとは何かを考え、理解することである。そして、時間的空間的に包括的な視点を持ち、現代と未来の社会において、私たちが直面する諸課題に向き合うため、レジリエンスの意義について検討し、実践する力を身につけることである。学習者には、本科目の内容を、自分が関わっている分野やテーマにあてはめて考察することを試みていただきたい。 検討中リストに追加

各回のテーマと放送内容

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第1回 レジリエンスとは何か
レジリエンス概念を説明するにあたり、世界でも最もレジリエントな遊牧社会を維持しつつ、首都の急激な都市化でさまざまな問題に直面しているモンゴルの実態、さらにはこれへの対策を講じるべくモンゴル国立大学と名古屋大学が共同で立ち上げたレジリエンス研究センターでの活動を紹介する。そこには、個人のくらし、自然環境、文化、社会、災害等、さまざまな問題が凝縮されている。これによりレジリエンスを複眼的に捉えることのイメージをつかむとともに、この授業を始めるにあたっての問題提起とする。また、この授業で目指す超域的視点のねらいを示す。
担当講師: 鈴木 康弘 (名古屋大学教授) 奈良 由美子 (放送大学教授) 稲村 哲也 (放送大学教授)
第2回 霊長類の共通祖先から受け継いだヒトのレジリエンス
ヒトが多様な環境に進出できたのはなぜか。そこには、霊長類の祖先から受け継いだ特徴を新しい環境に合わせて発展させ、さらにヒト独自の方法で変化させた進化の歴史が息づいている。この回では、まずヒトの祖先が類人猿から受け継いだ特徴とは何かを解説し、次にそれが変容してきた背景と過程を分析する。ポイントは、700万年にわたるヒトの進化がどういった特徴の積み重ねと変容によって、家族と共同体という重層構造をもつ社会に行き着いたのか、そのレジリエンスの生物学的基盤を理解することである。
担当講師: 山極 壽一 (京都大学総長) 稲村 哲也 (放送大学教授)
第3回 遺伝子からみた類人猿とヒトの心のレジリエンス
霊長類の行動観察と遺伝的研究の組み合わせにより、性格や行動パターンと遺伝子の関係が解明されつつある。この回では、性格や行動に直接影響する神経伝達関連の遺伝子を中心にとりあげ、類人猿とヒトの社会性、幸福などと関連づけ、感情と行動に関わるレジリエンスについて検討する。また、霊長類の遺伝子解析に基づいて明らかになった社会集団や行動の多様性について考察する。
担当講師: 村山 美穂 (京都大学教授) 稲村 哲也 (放送大学教授) ゲスト:川本 芳(京都大学准教授)
第4回 人類進化とヒトのレジリエンス
ヒトが、初期猿人から新人へと進化をとげる過程で、どのような困難(危機、弱点)をどのような身体特性と文化の相互作用で乗り越え、レジリエンス(強み)を確保したかを概観する。ヒトの身体的進化は、環境への適応以上に、文化との相互作用によるものである。新人は、優れた「認知能力」を発達させ共同性を発揮し、人口を増やして地球上に拡散し、地上に敵無しとなった。しかしその先に、どのような課題を自ら作り出してしまったのか、考えてみよう。
担当講師: 稲村 哲也 (放送大学教授) ゲスト:馬場 悠男(国立科学博物館名誉研究員)
第5回 食糧生産革命とレジリエンス
西アジアの新石器時代初頭に進行した食糧生産革命の歴史的意義と、そこに潜在した危機を明らかにすることが、第一の目標である。第二は、その危機を回避するために発動された社会的レジリエンスについて検討することである。ポイントとなるのは、周辺遊牧社会と定住社会との有機的な関係である。この点に焦点を当てて、西アジア新石器時代社会の重層的な理解を目指す。
担当講師: 藤井 純夫 (金沢大学教授) 稲村 哲也 (放送大学教授)
第6回 古代文明の盛衰とレジリエンス
食糧生産と人口増加などを背景として、都市文明が生まれた。都市では、階層と分業が確立し、人工的で複雑な居住構造と複雑な社会が形成され、それは超自然的力を背景とする世界観に基づいてもいた。必然的にヒトは自然環境だけでなく、自らが作り出した文化環境にも適応することが求められ、地震や旱魃など天災に加えて、ヒト社会が作り出すリスクに対しても新たなレジリエンスが必要とされるようになった。この回では、中米に栄えた古代文明の盛衰をレジリエンスの観点から見直し、私たちの現代社会で問われているヒトに特有なレジリエンス能力とは何かを考えてみたい。
担当講師: 杉山 三郎 (アリゾナ州立大学研究教授、愛知県立大学特任教授) 稲村 哲也 (放送大学教授)
第7回 ヒトと病原菌の共存とレジリエンス
多くの感染症は農耕の開始とともにヒト社会にもたらされた。感染症はヒトにとって厄介なもの、根絶すべきものと考えられているが、果たして、そうした考え方だけでよいのか。近年、微生物は、ある場合にはヒトに害として働くが、ある場合には利益をもたらすという両義性(アンビバレンス)を有することがわかってきた。また、ある種の微生物の不在が病気を引き起こす可能性も指摘されている。この回では、感染症を中心に、ヒトと病の関わりをとりあげ、病原菌と適度なバランスをとりながら柔軟に生存していく方策としてのレジリエンスについて考える。
担当講師: 山本 太郎 (長崎大学教授) 稲村 哲也 (放送大学教授)
第8回 アンデスにみるレジリエンスの諸相
この回は授業の折り返し点にあたることから、前半で議論してきたテーマを踏まえつつ、アンデス地方の人々の生活と社会の変遷を、通時的にかつ多角的に見通してみたい。この回の中心テーマは、古代アンデス文明がもっていた災害レジリエンス、インカ帝国の繁栄をささえた社会レジリエンスとしての再分配システム、そして新旧大陸の遭遇によるインカ帝国滅亡、そして、現代の先住民社会の生業と社会に維持されてきたレジリエンスの仕組みである。
担当講師: 稲村 哲也 (放送大学教授) 奈良 由美子 (放送大学教授)
第9回 フィリピン先住民にみる災害とレジリエンス
自然災害は、その被災者に大きな苦難と悲哀をもたらす。しかし同時に、旧来の生活インフラや社会基盤が破壊されることにより、新しい人間と社会を作り出す契機にもなりうる。この回では、1991年に起きた西ルソン・ピナトゥボ山の大噴火の被災者であった先住民族アエタの生活の激変と創造的復興の歩みを振り返りながら、アエタ社会のレジリエンスの由来を考える。また、いずれ近い将来に再び日本を襲うであろう地震・津波災害からの復興への備えを、アエタの経験から学ぶ。
担当講師: 清水 展 (京都大学名誉教授) 稲村 哲也 (放送大学教授) 奈良 由美子 (放送大学教授)
第10回 地球のレジリエンス
この回では、地球という巨大なシステムのレジリエンスを、私たち人類はどのように高めることができるのかを考える。私たちは人新世という新しい地質時代に入っている。一人一人の日常生活の積み重ねが、地球に不可逆的な変化をもたらすようになっており、実際、気候変動をはじめいくつかの地球のシステムは、プラネタリー・バウンダリーとして科学的に設定された閾値を超えている。一方、私たちの生活も、想定外のリスクが増大し脆弱になっている。社会の複雑化・高度化、そして地域間のいびつな相互依存が原因だと考えられる。こうした時代に必要なのは、地球規模の思考と身近な行動の間をつなげるという作業であり、その具体的な事例として、授業では東ティモールのコーヒーのフェアトレードをとりあげる。
担当講師: 阿部 健一 (総合地球環境学研究所教授) 稲村 哲也 (放送大学教授) 奈良 由美子 (放送大学教授)
第11回 災害への対応とくらしのレジリエンス
自然災害は人々のくらしに大きな外力を加える。生活(くらし)の主体はあくまでも各個人であるが、実際の日々のくらしは地域という地理的範域のなかで営まれる。したがって、レジリエントなくらしには、個人のレジリエンスとともに、地域コミュニティのレジリエンスが関わってくる。この回では、個人と地域コミュニティが災害に対するレジリエンスを高めることの意義と実際を検討する。
担当講師: 奈良 由美子 (放送大学教授) 稲村 哲也 (放送大学教授) ゲスト:小川 静治(放送大学大学院生)
第12回 心のレジリエンス
心のレジリエンスは何によって、どのように導かれるのか、これまでの研究から得られた知見を学ぶ。またその個人差はどう捉えられ、測定されてきたのかを知る。そして、心のレジリエンスとは、どのような状況でのどのような状態を指すのか、その多様なあり方を含めた理解の視点を学ぶ。
担当講師: 平野 真理 (東京家政大学講師) 奈良 由美子 (放送大学教授) ゲスト:安藤 和雄(京都大学准教授)
第13回 企業経営にみるレジリエンス
リスクから逃げず、状況を把握し、乗り越えてきた企業に焦点を当て、そこに見る共通の要素を探る。そして社員の仕事の満足度や精神的成長、企業生活、企業経営のあり方に関する指針として役立てていくための思考方法や方策を理解し、最終的には企業において復元力を醸成するための施策を理解する。
担当講師: 上田 和勇 (専修大学教授) 奈良 由美子 (放送大学教授)
第14回 対立と争いをめぐるレジリエンス
この回では、人類の進化の過程でどのように争いが起源したのかを検討し、争いの要因について検討する。ついで、現代における紛争に関して、ペルーの極左組織「センデロ・ルミノッソ」(輝く道)による内戦の事例を中心にとりあげ、ネパールの「マオイスト」(共産主義毛沢東派)による内戦の事例と比較して、その背景を考察する。また、文化人類学の古典的な理論から、争いを回避するシステムについてもとりあげる。
担当講師: 稲村 哲也 (放送大学教授) 奈良 由美子 (放送大学教授)
第15回 レジリエンスとその未来
授業全体の総括を行う。これまでの授業を俯瞰し、レジリエンスという概念が、遺伝子レベルから地球環境レベルまでつながっていること、また、人にとって、心理から病、社会(くらし、生業、経済、宗教、争い)、さらには災害の諸局面でレジリエンスが重要であり続けたことを確認する。そのうえで、レジリエンスの観点から現代と未来の課題について考える。
担当講師: 稲村 哲也 (放送大学教授) 奈良 由美子 (放送大学教授) 鈴木 康弘 (名古屋大学教授) 清水 展 (京都大学名誉教授) 山極 壽一 (京都大学総長) 阿部 健一 (総合地球環境学研究所教授)

放送メディア:

テレビ

放送時間:


2018年度 [第1学期] (月曜)
11時15分〜12時00分

単位認定試験 試験日・時限:

2018年度 [第1学期]
2018年7月31日 (火曜)
1時限 (9時15分~10時05分)

開設年度:

2018年度

科目区分:

総合科目

科目コード:

1910035

単位数:

2単位
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