
麻木久仁子の面接授業体験リポート
~第4弾「栄養の基本と食の自己管理」~
麻木久仁子さんの面接授業リポート第4弾。今回は「栄養の基本と食の自己管理」(栃木学習センター/土橋典子専任講師・宇都宮短期大学食物栄養学科)の面接授業「生活習慣病予防のための食事」の調理実習に参加していただきました。お料理自体は慣れているという麻木さんですが、栄養学の実習とあっておいしく作ればいいわけではないようです。面接授業を通じてどのような学びがあったのでしょうか、早速リポートしてもらいましょう。
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いざ栃木学習センターへ。順調な滑り出しで面接授業への期待が高まる
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東京駅から東北新幹線やまびこに乗って宇都宮駅に着くと、栃木学習センターのある宇都宮大学峰キャンパスへは車で約5分。天気も良く順調な滑り出しで、面接授業への期待が高まります。
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今回は、生活習慣病予防のための「減塩」が、大きなテーマ
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栃木学習センターに到着したのは11時過ぎ。お昼ご飯には少し早い時間ですが、これから調理実習をして、そこで作った料理を昼食としていただくことを考えれば最適な時間です。調理実習室へ着くと、調理実習台の上には大小の鍋やボウルと一緒に銀色のトレイが置いてあり、その中に食材や調味料が準備されていました。
すぐにでも調理実習を始められそうです。しばらくすると、受講生たちが集まり、講師の土橋先生から調理について説明がありました。
メイン料理はカジキマグロの赤ワインソース、それにインゲンの胡麻和え、エビとトマトのスープ、デザートには牛乳きなこもちというメニューです。このメニューには、地産地消を意識した食材が使われているそうですが、それだけではありません。お料理教室とは違い栄養学の授業、しかも「生活習慣病予防のための食事」の授業回なので、「減塩」が大きなテーマになっていて、減塩につながる仕掛けがところどころにあるのです。土橋 典子
宇都宮短期大学食物栄養学科専任講師 -
5つの班に分かれて調理スタート。皆さんテキパキ慣れた手つき
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先生の説明が一通り終わると、班分けに入ります。20名に満たない人数なので、3~4名のグループを5つ作って作業開始。主菜担当、副菜担当、スープ担当など、担当を決めて調理するのですが、皆さん慣れた手つきでテキパキと調理を進めるので、普通の料理教室とはまるで様子が違います。私は、エビとトマトのスープを担当しました。
調理自体はいつも通り進めればいいので特に難しいことはなく、手を動かしながら同じ班の人たちと会話を楽しみました。放送大学は放送やインターネットを通じて、遠隔地に一人でいても勉強できるのが醍醐味ですが、面接授業でいろいろな人と直接会ってコミュニケーションを取るのも面白いですね、学習にはりが生まれます。 -
班に分かれて調理実習
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赤味噌じゃなくて白味噌を使うなど、メニューの随所に「減塩ポイント」があった!
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減塩が考えられたメニュー
ここで今回のメニューについて、先生から聞いた「減塩ポイント」を紹介します。まずインゲンの胡麻和えで、インゲンを茹でるときは塩を入れないこと。塩を入れて茹でると色が綺麗になると言われていますが、新鮮な食材は塩を入れなくても綺麗に茹で上がります。そして、胡麻和えで使う味噌は赤味噌ではなく白味噌を使うこと。実は白味噌は赤味噌よりも食塩が少ないので、味を落とさずに減塩できるのだとか。
カジキマグロの味付けも、減塩を意識して塩コショウは軽くします。また、野菜を使うこともポイントです。野菜や果物にはカリウムが豊富に含まれているので活用してください。なぜなら、カリウムは食塩を体外へ排出する働きがあるからです。 -
実体験を通じて学習を補強できるのが面接授業の良いところ
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約90分で全ての班の料理が完成。どの班も役割分担がスムーズで、チームワークが良かったのが印象的でした。調理実習が終わると昼休みに入りますが、私たちは先ほど実習で作った料理を食べるため、出来上がった料理を持って隣の部屋へ。作業のお手伝いをしてくれた宇都宮短期大学の2人の学生さんが、主食の雑穀米を炊いてくれていました。
ここでも調理実習のときと同じメンバーで食卓を囲み、調理実習を振り返りながら談笑。そこで印象的だったのは、「なぜこの食材はこの分量なのかを考えながら調理するのは楽しい」ということです。ただの知識習得で終わらず、実体験を通じて学習を補強できること、実感として腹落ちできることが、面接授業の利点だと感じました。 -
調理実習を振り返りながら談笑
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通説が間違い?「酒は百薬の長」ではないらしい…
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午後からは座学とグループワークの時間です。今回のテーマは「自分の栄養状態とロコモ度に基づく食計画づくり」ですので、まず先生から生活習慣病の原因や症状について講義がありました。日本人の死亡に関わるリスク因子に関する調査では、高血圧が第2位(第1位は喫煙)、高い食塩摂取(高血圧以外)が第5位であること*1がわかりました。食塩の過剰摂取はリスクが極めて大きいのです。また、生活習慣病の第1位は高血圧症だそうです。食塩の摂り過ぎは高血圧と深い関係があるので、今回の減塩メニューにもつながっています。また驚いたのは、これまで「酒は百薬の長」といって、適量のお酒は健康に良いとされていましたが、実はこれが統計的な誤りであり、病気によっては少量のお酒でも健康リスクが高まることが分かったのです。*2私も飲酒が習慣になっているので耳が痛く、専門の先生に講義で言われてしまうと、控えることも検討しなければいけません。
*については、Lancetという世界的に権威ある医学誌に根拠が示されているそうです。*1 Lancet 2011;378, *2 Lancet 2018;391, 392 -
座学で勉強。生活習慣病の第1位は高血圧
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班ごとに意見を出し合い前に出て発表、グループワークの結果は上々!
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グループワークでは、班ごとに症例を記した紙が配られます。そして、その症例にはどのような食事がいいのか、どんなことに気を付ければいいのか、班ごとに話し合ってパワーポイントや模造紙にまとめ、最後に前に出て発表します。配られた症例は各班で違うので、おすすめする対応策や食事も千差万別です。アドバイスの角度や視点がグループごとに違っていたのが面白く、ますます栄養学に興味がわきました。
私たちの班でも、提示された症例について、ああした方がいいこうした方がいいと話し合って要点をまとめ、みんなの前で発表。先生からはお褒めの言葉をいただいたので一安心です。結果は上々と考えていいでしょう。 -
症例を見ながら対応策を話し合い
内容をまとめてみんなの前で発表
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不足しがちな栄養素を多く含む食物を積極的に摂ろう
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最後に先生にお話を聞く機会があったので、「最近は若い頃ほど食べられません。 必要な栄養が不足しますか?」と質問すると、「加齢とともに、必要なエネルギー量は少なくなりますので、若い頃ほど食べられなくなること自体は問題ありません。エネルギーが足りているかどうかは体重によって判断します。BMI(体重÷身長÷身長)が適正な値であればエネルギーの過不足はないと考えられます。一方、必要な栄養素の必要な量(推奨量)は年齢によって大きく変わることは少ないため、お酒やお菓子のようにエネルギー量が高いものの、栄養素の量が少ない食品は控えめにし、一般的に不足しがちなカルシウム、ビタミンD、鉄、不飽和脂肪酸などを多く含む食品、例えば牛乳、緑黄色野菜、青魚などを積極的に摂るようにしましょう。ただし、必要な栄養素摂取量は個人によって多少の違いがあります。自分自身の不足している栄養素を知りたい場合は、面接授業で行ったような食物摂取頻度調査や食事記録の分析などを通じて把握することができます。」と言われました。
またこの面接授業は、インターネット上にあふれる情報の中から、いかに正しい情報を見極め、自身の健康寿命を延ばしていくかを、講義と実習により身につけることを目的の一つとして企画したそうです。 -
土橋先生(左)・麻木氏(右)
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最後に私あてに、先生から嬉しい一言をいただきました。
「料理研究家として、これまで多くの本をお書きになり講演もされるなど、高い健康意識をもって啓蒙活動をされてきた麻木久仁子さんにリポートしていただき、また、それに加えてミニ対談をさせていただき、大変光栄に思いました。
麻木さんは栄養に関する幅広い知識をお持ちであるだけでなく、栄養に関する新しい知見を素早く正確に理解し、周りの皆さんにわかりやすい言葉で説明して助けてくださっていたのが印象的でした。麻木さんには、日本人の健康寿命をさらに延ばすために、今後も大きな影響力を発揮されますよう、ご活躍されることを祈念しております」このお言葉を糧に、私なりにこれからの食生活を考え、発信していけたらと思います。 -
受講生の皆さんありがとうございました。