中崎孝一

紹介
フローニンゲン宣言ネットワーク 戦略諮問委員、2025年10月まで同機関 理事。トムソン・ロイターで事業開発本部長、製品開発・戦略本部長など要職を歴任後、2019年から公益財団法人 未来工学研究所主席研究員。専門は、事業開発(M&A・戦略的提携)、ベンチャー・キャピタル、IT製品開発、国際人材育成戦略など。
発表タイトル
最後発から最先端へ:デジタル学修歴証明の相互運用性をめぐる世界と日本
発表要旨
学修歴証明の相互運用性は、学生の国際的な移動性や生涯学習の促進といったミッションを担う、世界の高等教育における共通課題であり、情報基盤整備の最前線にあります。
欧米やアジア諸国では1990年代から国家的な取り組みが進められ、2020年には多くの国で卒業証明のデジタル化率が95%を超えるまでに至りました。その一方で、日本は長らくこの潮流から取り残され、2020年時点でデジタル化率は0%にとどまっていました。
しかし2022年、文部科学省の委託事業を契機として、国際的な相互運用性を重視する方針と、大学主体の市場駆動型アプローチが打ち出されます。この方針を受けて大学とIT企業による実装が急速に進み、2024年後半からは新たな製品やサービスが次々と登場しました。
行政主導ではなく、ユーザー需要と市場競争によって自然に形成されたこの動きは、特定の標準や枠組みに依存しない、柔軟で多様なエコシステムとして国際的にも注目を集めています。
本セッションでは、まず、主要各国がどのように学修歴証明のデジタル化を進めてきたかについて、学生データの国際的携帯性の推進に取り組むフローニンゲン宣言ネットワークが昨年発表したベスト・プラクティス・モデルを参照しつつ、組織・技術の両面から概観します。
続いて、2024年以降に日本のIT企業によって市場投入されたデジタル学修歴証明ソフトウェアやサービスを取り上げ、世界の最新動向との比較を通じて、その特性・課題・今後の展望を検討します。
そして、世界の「最後発国」であった日本が、いまや「最先端モデル」となり得る可能性を示し、国際的な相互運用性をめぐる議論の新たな地平を日本から世界へと切り拓きます。