Vol.15 辺境から世界を見る

稲村哲也教授(人間と文化コース・人文学プログラム)

2015年6月17日

辺境から世界を見る
モンゴルの最北部、山岳タイガ地域。トナカイ遊牧民調査の帰路。左端は共同研究者スフバートル氏(地理学者)、右端は案内の国境警備隊員。

私の専門は文化人類学ですが、おもな研究フィールドは、アンデス(ペルー)、ヒマラヤ(ネパール、ブータン、インド、中国チベット自治区)、モンゴルです。

アンデスではアルパカ・リャマを飼う牧民(先住民)の調査を1978年から続けています。ヒマラヤでは、ヤクなどを飼うチベット系牧民や森を遊動する狩猟民ラウテ、モンゴルでは、草原・乾燥地域で5種の家畜を飼う遊牧民や、北部の山岳タイガ地域のトナカイ遊牧民などを研究対象としてきました。私の関心は、高所・乾燥地域など、農耕が不可能な極所・辺境地域に住む牧畜民の生活や文化です。そうした辺境地域も外の世界と無縁ではなく、たとえば、ヒマラヤは国境地域(そして国境紛争地域)です。モンゴルは90年代に社会主義から民主主義・市場経済に転換しました。辺境から世界の動きがより先鋭的に眺望できます。

昨年これまでの研究をまとめた『遊牧・移牧・定牧―モンゴル、チベット、ヒマラヤ、アンデスのフィールドから』(ナカニシヤ出版)を刊行しました。他分野との共同研究も多く、インド・ラダック地方などで医学・栄養学等の研究者(京都大学)と高所における生活習慣病の増加とその社会的背景などについて研究しています。また、モンゴル国立大学・名古屋大学と共同で「レジリエントな都市の構想」プロジェクトもはじめ、それに関連した著書『草原と都市―変わりゆくモンゴル』(風媒社、共編著)を刊行したところです。